今日は東工大で行なわれたSBM研究会に参加してきた。是非感想をmixiかブログに書いてくださいとのことだったので、感想と考えたことをまとめる。

とても新鮮だった

一番印象的だったのは、集まった人に結構いろんな立場の人がいたこと。SBM研究会には、大手SI企業の人、データマイニングやレコメンデーションの研究をしている研究者、Webサービスの開発者や運営者、技術好きな学生などなど。

これはとても新鮮だった。仕事柄というか趣味でというか、ここ最近技術系のカンファレンスや勉強会に何度か足を運んでいるのだけど、その雰囲気とはまるで違う。俺は興味の方向が基本的に「コンシューマ向けのWebサービス」に向いているので、普段はBtoBな業界の方や研究者の方と交流する機会は少ない。こうして同じ場に集まることで、視点の違い、空気の違いを感じられて刺激を受けることができて良かった。

印象に残った発表

どれも興味深い内容だったのだけど、専門的になるし内容も濃いので、具体的な話は発表者の方や他の参加者の方にお任せするとして、いくつか印象に残った発表についての雑感を。

ソーシャルメディアとマーケティング

発表者は学びing株式会社の横田さん。SBMの歴史をざっとなぞり、現状のソーシャルメディアはどういう状況に置かれていて、今後どう展開していくのが良いだろうかという提案だった。

まずSBM、というよりはオンラインブックマークというサービスを、del.icio.us以前の「ブレイク前」と以降の「ブレイク後」に分けて、その違いを考察。最大の違いは「ローカルのブックマークのバックアップ、ストレージであったものが、del.icio.us以降は日用のツールになった」ことだと指摘。また、評価の可視化、ブログの興隆による「パーマリンク」の増加、ソーシャルタギングなどの分類手法が「ブレイク前」とは異なる成功要因である、とも。

次いで現状のSBMの置かれている状況について。「ブレイク後」とは言え、アンケート結果によると日本では7%強程度の「ユーザ」しかいないとの事実を指摘。まだまだSBMはいわゆる「キャズムを越えていない」ものだってのは共通認識ではあるんだけど、実際に数字を見せられると流石に愕然とする。7%って。いかに自分たちがいる界隈が「濃ゆい」集団かってことを再認識せざるを得ない。もちろんこれはSBMを「ツールとして」「意識的に、能動的に」使ってるユーザの話であって、それと気付かず検索結果などからSBMに辿りついたり、実態は領域特化型のSBMだけれどもSBMと呼ばれていないサービスを使っている人は含まれていない。とはいえ、はっきり言ってまだ「あまりにもパイが小さい」のは確か。

それを踏まえた上で、現状で無理に一般層へアプローチするのではなく、「閉鎖空間」をキーワードに、一度ターゲットを狭めて存在感を高めてからより汎用的なものを目指すべきではないか、との提案があった。例えば領域特化型のSBM、イントラSBM、モバイルSBM、など。実際にニッチなSBMやイントラSBMはちらほら存在感を増してきてはいるんだけど、モバイルSBMに関しては今のところまだ目立った成功例がないみたいだし、俺も個人的には懐疑的。理由として横田さんは「mixiやモバゲーなどのコミュニティがサイト内で出しているニュースや更新情報が、PCの文化に置けるSBMの情報配信の役割を果しているのではないか」と言っていたけど、多分、単純に「SBMにポストしづらい」のが最大の原因だと思う。ブックマークレットやアプリケーションを使えないし、URLをコピペしづらいし、それ以前にそもそも携帯端末でのブラウジング中に「URL」を意識する場面が非常に少ない。そういう障害が一気に打破されるような何かが出てこない限り、モバイル文化にSBMは定着しないのかなーと思う。

ちなみに、横田さんのプレゼンはとても面白かった。内容もさることながら飽きさせない話し方が良かった。影響力がもっとも強いのはやるおなのではないか。

Webの世界に「気付き」を集積するコモンズ・マーカー

発表者はコモンズ・メディアの星さん。先日リリースされたばかりのコモンズ・マーカーの紹介。何がどう凄いのかは実際に使ってみたりyuguiさんの記事を見たりしてもらう方が早いと思うので、敢えて解説はしない。

関心したのはそのUIへのこだわり。敢えて付箋のメタファーを捨て、いかにマークとコメントを効率良く閲覧できるかを追求した話は参考になった。そうだよなぁ、他にベターな解があるなら、別に「現実にある何か」に似せる必要はない。この辺はUIの設計の話になるのでまた別の機会につきつめて考えることにする。

あと、印象的だったのは、「引用部とコメントをセットにして一つのマーカー」にする、という見せ方。引用部とコメントが対になっていることで、単体でコンテンツたり得るということ。星さんはコモンズ・マーカーを「注釈を付けるサービスであると同時に、簡単にWeblogを記録できるサービス」だと言っていたけど、これはあれだ…Tumblrに似てるんだ。ページを軸にしてマーカーを並べると、「あるコンテンツに対しての注釈・解釈」に見えるのに、人を軸にして並べると、「その人が何を見てどう思ったのかが綴られた記録」に見える。それだけでその人の個性が出てくるし、それ自体が立派なコンテンツになる。これは面白い。

ただ、見ていて思ったのは、SBMに似てはいるけど、SBMとはまた少しベクトルの違うサービスかな、ということ。今SBMが担っている役割のうち、アノテーションに大きく重心を傾けたサービスのように思える。一応、タギングなども供えてはいるのだけど、評価や分類と言った要素はメインではないし、逆にそっちに重心を戻すとせっかく新しく生まれた魅力が減ってしまう気もする。今後コモンズ・マーカーがどう発展するのか、非常に気になるところ。

パネルディスカッション

パネラーのみずほ情報総研の吉川さんが紹介した、社内SBMの導入事例が面白かった。社内SBMを導入したことで、少なくともユーザ同士は同じ情報を見たという前提を共有できていることで、議論の前段の前提の確認のための時間が減って、よりコミュニケーションに集中できるようになった、とのこと。また、導入当初は一部署で始めて、その後ユーザ数を拡大した際に「ノイズが増えて情報共有のコストが上がる」ことが懸念されたが、「むしろ他部署の動向が知れて有益」と概ね好評でノイズの増加は起きなかった、とのこと。あと、社内文書もクリップできるようにしていたが、実際には社内文書のクリップは殆どされなかった、とも。面白い。うちだったら社内にもクリップしたいリソースは山程あるんだけどなー。

それから、社内SBMを導入したみずほ情報総研、コンシューマ向けにグループ単位のSBM「BuzzurlPlus」をリリースしたECナビが共に「コミュニティを志向し、コメントを付ける文化を求めた」ことも興味深い。ここは実はlivedoorクリップチームも同意見で、今後のSBMの展開にはキーになると思っている。

その他、全体的な印象

レコメンデーションという切り口でSBMに着目している人が多かった印象。確かに、社会学や情報工学の分野の研究材料としては大変面白いデータが集積されているし、マーケティングのツールとしてもレコメンデーションは重要な要素だ。だけど、「コンテンツの評価軸としてのSBM」や「コミュニティとしてのSBM」への言及が少なかったことが気になる。これについては後述する。

あと、まぁ分かり切ってたことだけど、はてブ人気すぎ。ほぼ全プレゼン中で言及されてnaoyaさんがニヤニヤしたり苦笑したりしてるのが面白かった。ただ、まぁ、一応SBMサービスの提供者として言っておくと、「はてブの長所・欠点」をそのまま「SBMの長所・欠点」みたいに語るのはもう少し慎重になって欲しいなと思った。そこ、クリップなら違うことやってんだけど、やっぱ見てないかー、とか何度か言いたくなった。ちょっと残念。まだ努力が必要だなー。

研究会に対して不満に思ったこと

とりあえずこれだけは書かないわけには行かないと思ってたので書く。

なんでmixi?

今回のSBM研究会は、mixiイベントを使って告知され、mixiイベント上で参加者の管理が為された。また、感想もmixiで書くよう勧められ、(参加者は全員mixiのユーザーであるのが前提なので)是非mixi上で交流を持ちましょう、とも言われた。mixiがサービスとして良いか悪いかは話がそれるのでここでは語る気はないが、言いたいのは、SBM研究会という会を運営するにあたってその方法は適切だったのか、ということ。

(追記: 6月末にブログ告知とメール応募もしてたのは知ってたけど、4月時点での告知、5月末のTechTalk.jpでの告知には気付いてなかった。うわー、これは恥かしい。俺の勘違いですね、すいません。まぁでもそれでもmixiイベントでの運用と、感想をmixiに書くように勧めるたことは微妙だなーと思うので、ここの記述は残しておきます。あとTechTalk.jpは素敵すぎる。ちゃんとチェックしとこう。)

mixiは規模こそ巨大ではあるものの、「閲覧にも書き込みにもアカウントが必要なクローズドなコミュニティ」であることに変わりはない。である以上、その中の情報に検索で到達することができないし、SBMを使って周知することもできない。本来ならリーチし得たはずのSBMに関心があり有益な情報を持っている人が、この研究会の存在を知ることができなかったり、知っていても参加できなかったりした可能性がある。

はっきり言う。「SBMの」研究会なのに「SBMがカバーしていない」場所で行なわれる意味が、全くわからない。最初からブログで告知して、メールで参加者を募るなりして、感想はブログに書いてSBMでブックマークすること、という方法の方が適切ではなかったのだろうか。俺だって、Twitterでたまたまこの話を聞かなければそもそも存在すら知らなかった、いや、「知れなかった」。それから、今回の参加者のブログ記事は情報の共有がしやすいように「SBM研究会」タグを付けてください、とまで指示が出ているにも関わらず、一方でmixiアカウントが無ければ閲覧すらできない場所に感想を書くことを推奨するとはどういうことなんだろう。何か理由があるのなら是非教えて欲しいし、そうでないのなら次回以降は違う方法を検討して欲しい。

サービス提供者の視点で語ってくれる人が欲しかった

それから、若干気になったのは、発表内容がビジネスと学術に偏り気味だったこと。例えば、レコメンデーションやフォークソノミーの研究対象として見た場合に、SBMはデータの集合として捉えられる場合が多い。だけどそれだと、ユーザ同士のコミュニティが作る文化や、元のコンテンツに付加されたコメントが生み出す価値や、UIによるユーザ動向の変化など、SBMという「サービス」に重要な要素が出てこない。

もちろん、学術的な研究対象としては非常に扱い辛いものであることも、ビジネスの観点では優先順位として低いことも、十分にわかる。それから、吉川さんや宇佐美さんの話はその辺にも触れたし、コモンズ・マーカーの紹介もあったわけで、それはそれで大変参考になった。だけど、1セッション使ってその辺を掘り下げてたり一般化したりした話があってもいいくらいのテーマなのに、それが無かったのが残念だ。

最後に

いくつか不満は挙げたけども、各発表は興味深いものばかりだったし、この研究会を通じて知り合えた方々からもすごく刺激を受けた。全体としては本当に有益な時間でした。運営の方、発表者の方、休憩時間や解散した後の飲み会でお話させてもらった方、本当にみなさんありがとうございました。